東京八王子市にあるレジャー施設「東京サマーランド」のブログが炎上したという記事を見ました。
プールがメインのこの施設では、2008年からイレズミやタトゥーがあるお客の入場を禁止しているということです。
美容師でタトゥーをしている方の比率は他業種に比べ多いようにも見受けられますが、このことが世間や顧客にどう映っているのか考察していきます。
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「東京サマーランド」の見解によると、「イレズミを身体に入れる自由があるようにイレズミの方の入園をお断りする自由もあるのです」とのこと。
「イレズミ等のある方はサマーランドを利用することはできないので来ても時間やお金の無駄になるという話です。(略)案内はしているので見てないとか聞いてないというのは言い訳にはなりません」
「イレズミのあるお父さんやお母さんと一緒に来たちびっ子は本当に気の毒です。
楽しみにしていたプールで遊べず帰る姿を見るのはこっちも本当につらいです。お子様のためにもイレズミの方はサマーランドの利用をあきらめてください」
といったように「8年も前から告知しているのだから、刺青やタトゥーがあったら来ても入れない」と、強い口調で訴えていました(ブログは現在削除されています)。
これに対して「ツッコミどころ満載」、「説明が若干上から目線気味」という声がTwitterなどであがり炎上したとのことです。
上記の炎上と同時に「区別は必要」、「正論」、「よくぞ言った!」などの意見もあったそうです。
イレズミやタトゥーを見る目は依然厳しいのが現状です。
サマーランドだけではなくプールや温泉などでは「イレズミ・タトゥーお断り」がほぼ占めており、ある人は両腕にタトゥーを入れていたことから、成田空港で麻薬探知犬に何度も調査されたという実態があるそうです。
イレズミやタトゥーはアウトローのイメージが、日本ではまだ根強いように感じます。
イレズミを研究しているある大学教授によると、イレズミは人類にとって、もっとも古い身体装飾なのだそうです。
「イレズミの起源をよく聞かれますが、それは定かではありません。
しかし人類は割礼や纏足、首の伸長など『身体加工』と呼ばれるさまざまな行為をしてきました。
イレズミもそのひとつで、人類が出現して以来、人間は身体を加工し続けてきたんです。
イレズミと思しき線が入っている土偶や埴輪はいくつも出土していますし、3世紀の文献『魏志倭人伝』にも『男子は大小となく皆面(かお)に黥(いれずみ)し身(からだ)に文(いれずみ)する』とあります。
沖縄の宮古では女性が針突(はじち)と呼ばれるイレズミを、手からひじにかけて入れる習慣がありました。
これは女性であることや結婚の証としてのもので、通過儀礼の意味合いも持っていました。アイヌの女性も同様に、顔や手にイレズミを入れていました」
文明開化がイレズミを隠した7世紀中ごろを境に、日本人は「顔や身体を感じさせない美」を重視するようになり、以降17世紀に入る頃まで文献や絵画資料から、日本本土でイレズミに触れるものは見つからなくなってしまったとのこと。
しかし江戸時代になると鳶や火消し、飛脚など、ふんどし姿になることが多い職業の身体装飾として再びおこなわれるようになりました。
そして享保時代には、刑罰の意味で額や腕などにイレズミを入れる「黥刑(げいけい)」も生まれたそうです。
また当時からイレズミを見せて恐喝する者が現れたため、一般の人たちにイレズミアレルギーも広まったそうです。
それが一転、明治に入ると彫師や愛好家の取り締まりが強まり、明治5年からは彫師をすることと彫師の客になることが、法的に規制されるようになりました。
以降は沖縄やアイヌの女性もイレズミをすると逮捕されたので、イレズミ=違法なものという考えは、この頃に生まれたものだと推測でききます。
そして同時に「イレズミは隠してこそ、精神的にも美しさのうえでも深みを持つ」という考えも生まれていったそうです。
まさに明治以降のイレズミは「秘すれば花」。
「サマーランドの一件は、その美学に反したふるまいが原因になったのではないか」と、大学教授は分析する。
というように日本でのイレズミやタトゥー文化は歴史とともに変化しており、「隠してこそ精神的にも美しさのうえでも深みを持つ」、という考えに反したのでサマーランドの一件が炎上してしまったのではないかと分析しています。
さらに下記のようなことも述べています
「私は研究を始めたばかりの頃に、神田周辺で鳶をしている『江戸消防彩粋会』の方々にお話を伺いました。
彼らはイレズミがある先代への憧れや、祭りの時に映えるだろうという理由から入れていましたが、多くの人が周囲に『苦労するから』と、入れることを止められたそうです。
そこで人前では見せないようにして、温泉やプールは遠慮するなど気を使っていました。
このようにイレズミを隠すことは江戸の『粋』でもあり、見せて歩くことは『やぼ』でもあったんです。
しかし90年代に入った頃からタトゥーが流行して、『悪いことじゃないから隠さなくていいんじゃない?』という感覚の人が増えました。
彼らは言ってみれば、先達が守り続けてきたふるまい方を心得ていない。だからブログで指摘されたのではないかと思います」
と述べています。
関東弁護士連合会が2014年に6月に全国の男女1000名に実施したアンケートによると、イレズミを入れている人は1.6%で、「入れたいと全く思わない」と答えた人は85.7%。
またイレズミと聞いて連想するものは55.7%がアウトローで、47.5%が犯罪だったそうです (複数回答)。
この結果を受けるとイレズミやタトゥーはアウトローのイメージが、日本ではまだ根強いように感じます。
海外ではレディ・ガガやジャスティン・ビーバー、ジョニー・デップなどの海外セレブという方たちをはじめ、芸能人や一般の人達がタトゥーを入れている光景を見受けらます。
海外では自身の決意表明やファッションの一環として認知されており、日本のようなアウトローのイメージは少ないと思われます。
日本でも安室奈美恵や浜崎あゆみ、EXIELのメンバーやTOKIOのメンバーなど一般的に人気も認知度もあるアーティストや芸能人が多く入れていますし、以前よりはアウトローのイメージが払拭し始めているのかもしれません。
しかし特殊な職業に限定されているのは事実で、それを一般個客を対象とする職業の美容師と紐づけてよいのかという考えは難しいところです。
本記事はタトゥーを入れている美容師を否定する内容ではありません。
「東京サマーランド」のブログが炎上したように、日本には様々な考えの方が多くいること。
以前に橋本徹が大阪市長時代、全職員に対し入れ墨調査をし物議をかもしだしたように、まだまだ一般的な社会生活でのリスクが高いことは否めません。
記事の著者
GRADBOOK Inc. (グラッドブック)
代表取締役CEO 布野哲也 Funo Tetsuya
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